東京高等裁判所 平成2年(行ケ)145号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。
1 本願意匠は、意匠に係る物品を「型材」とする貨物自動車等の荷台用煽り板に関するもので、その形態は別紙第一のとおりであることは当事者間に争いがなく、引用意匠は、意匠に係る物品を本願意匠と同一のものとし、その形態が別紙第二のとおりであること、並びに本願意匠との形態上の一致点及び差異点が審決認定のとおりであることは原告も認めて争わないところである。
別紙第一及び第二によれば、本願意匠と引用意匠は、基本的構成態様において、ともに前面に前方に凸出した嵌合部を有する本体部の側面視断面形状が横長長方形枠体様を呈する偏平な中空管体様板体において、その板体の平面の後方部を長手辺に沿い僅かに一段高く凸出した部位を広幅に形成し、板体の中空内には板体内方を仕切る板を垂直に設けたものである点で共通しているが、その具体的構成態様については、審決認定のとおりの差異(前記「審決の理由の要点」第3項記載)があることが認められる。
ところで、本願意匠と引用意匠がともに意匠に係る物品とする「型材」は、貨物自動車等の荷台の側面板の構成部材として使用するものであるから、その平面図(引用意匠においては正面図)及び右側面図から観察される形態が取引者、需要者の注意を強く喚起し、両意匠の特徴を印象ずけるのである。そして、この方面から観察された前記基本的構成態様が意匠全体の支配的部分を占め、意匠的まとまりを形成しており、これが意匠の要部をなすというべきである。
してみると、本願意匠と引用意匠とは意匠の要部である基本的構成態様において一致するのであるから、両意匠は類似の意匠というべきである。
原告は、両意匠の一致する構成態様は、貨物自動車等の荷台の煽り板に使用する型材としては従来よりみられるごく普通の形態であつて看者の注意を惹かないから、意匠の要部とはいえず、両意匠の要部は、嵌合部と凹状やV字状細溝を設けた平面凸出部にある旨主張する。
しかしながら、意匠の要部は、当該物品の性質、用途や使用形態という観点から看者がどの部分の形態に注意を強く惹かれるかによつて決せられるのであつて、たとえありふれた形態であつたとしても、それが前記観点から看者の注意を惹くものである場合には、意匠上の要部と認められるのである。
したがつて、ありふれた形態であるから意匠の要部たり得ないとする原告の前記主張は採用し得ない。本願意匠と引用意匠の要部は、前記判示したとおりその基本的構成態様にある。また、両意匠には具体的構成態様において、嵌合部や平面凸出部の形態に審決認定のとおりの差異があるが、これらはいずれも意匠全体としてみると限られた部位における軽微な差異にすぎず、これが意匠の類否を判断する要部とは認められない。
2 以上のとおりであつて、本願意匠と引用意匠とは、意匠に係る物品が一致し、かつ、意匠の要部である基本的構成態様において一致するものであるから、両意匠は類似の意匠というべきであり、審決の判断に誤りはなく、審決に原告主張の違法はない。
三 よつて、審決の取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却する。
〔編注1〕本件における請求原因は左のとおりである。
一 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和五四年六月六日、意匠に係る物品を「型材」とし、その形態を別紙第一に示すとおりのものとする意匠(以下「本願意匠」という。)につき意匠登録出願(昭和五四年意匠登録願第六五九二号)をしたところ、昭和五七年九月二八日拒絶査定を受けたので、同年一二月一七審判を請求し、昭和五七年審判第二五三三五号事件として審理された結果、平成二年三月二九日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年六月一三日原告に送達された。
二 審決の理由の要点
1 本願意匠は、意匠に係る物品を「型材」とし、形態を別紙第一に示すとおりとしたものである。
2 これに対し、原審において拒絶の理由として引用した意匠は、昭和五一年意匠登録願第三七一二四号(昭和五一年九月一八日登録出願し、昭和五四年一月三一日拒絶の査定がなされ、その後、査定が確定した)の意匠であつて、その意匠は、願書の記載及び願書に添付した図面によれば、意匠に係る物品を「型材」とし、その形態を別紙第二に示すとおりとしたものである。
3 本願意匠と引用意匠とを比較すると、両意匠は、意匠に係る物品が一致し(両意匠とも貨物自動車等の荷台用煽り板に関する出願であるので物品は一致するものである。)、形態については以下に示す一致点及び差異点が認められる。
すなわち、両意匠は、前面(引用意匠にあつては平面図)に前方に凸出した嵌合部を有する本体部の側面視断面形状が横長長方形枠体様を呈する偏平な中空管体様板体において、その板体の平面の後方部を長手辺に沿い僅かに一段高く凸出した部位を広幅に形成したという構成態様が一致し、各部の態様においても、嵌合部を板体の厚さより一廻り小幅とし、この嵌合部の付け根を板部の前面部より稍奥方から板体との間に僅かな隙間を設け形成したものとし、板体の中空内方の段形成部位に板体内方を仕切る板を垂直に設けたという点が一致するものである。
他方、<1>嵌合部の態様において、本願意匠は、同嵌合部前面を広幅に大きく凹状に後退させ深い溝様に形成したのに対し、引用意匠は、同部をきわめて浅く窪ませ浅い溝様に形成したという差異、<2>板体の背面部(引用意匠においては底面図)において、引用意匠は、背面の上端部に長手方向に向け稍斜め上方に迫り出した細幅のリブを水平に設けたのに対し、本願意匠はリブを設けていないという差異、<3>本願意匠は、板体の平面後端部を長手辺に沿い一段低く形成し小さな段部を設けたのに対し、引用意匠は段部を設けていないという差異、<4>本願意匠は、平面の凸出部の前方寄りに凹状の細溝を、また背面部の中央にはV字様の細溝をいずれも長手方向に向け一本ずつ水平に設けたのに対し、引用意匠は、いずれの溝も設けていないという差異、<5>板体の内方中空部においては、本願意匠は前方の中間部をさらに一枚の垂直板で仕切り、板体内方を全体として三つに分割したのに対し、引用意匠には前記垂直板はなく、板体内方は全体として二つに分割したものであるという差異が認められる。
4 そこで、前記一致点及び差異点を総合し両意匠を全体として観察すると、前に一致するとした構成態様は両意匠の形態上の特徴を最もよく表わすものといえ類否判断を左右する要部をなすものと認められる。
これに反し、差異点中、<1>嵌合部における差異、すなわち、引用意匠は同前面部をきわめて浅く窪ませ浅い溝様とするのに対し、本願意匠は凹状の深い溝様とするという差異は、一応本願意匠の特徴として採り上げられるとしても、この特徴も本願意匠と略同様の嵌合部を有する自動車用煽り板材(例えば、昭和五三年六月七日登録、意匠登録第四〇三六七二の類似三号の型材の意匠)が本願意匠の意匠登録出願の日前にもみられ、この点に関しては何も本願意匠独自のものとすることもできないので、その差異は類否判断を左右する要素として採り上げるには微弱といわざるを得ない。<2>また、板体の内方部における差異もこの種の態様をなす自動車用煽り板材にあつては板体の内方を垂直な仕切り板で仕切り複数の区画部に分割するということも普通になされ、この点に関してもまた本願意匠独自のものとすることもできないので、その差異は類否判断に然したる影響を与えるものでない。<3>次に、板体の背面上端部にみられる細幅のリブの有無及び平面後端部にみられる小さい段部の有無は然程目立たずそれ程看者の注意を惹くものでないので形態全体としてみると限られた部位における軽微な差異というほかなく、<4>さらに、本願意匠の平面の凸出部にみられる凹状の細溝の有無、並びに背面の中央にみられるV字様の細溝の有無に至つては、この種の物品である煽り板材の意匠を創作するものにあつては普通になされる表面の加飾性の創作の範囲にとどまり、且つ本願意匠の程度ではそこにそれ程の意匠の創作性の存在をも認めることができないので、その細溝の有無は類否判断に影響を与えるものでない。そうして、これらの差異点を総合しても前記構成態様における一致点を凌駕するものとは到底認められない。
5 以上のとおり、本願意匠は、引用意匠とは意匠に係る物品が一致し、形態においても、その形態上の特徴を最もよく表わす要部が一致し、その他の点においても一致するところが認められるので両意匠は、互いに類似するものというほかない。
したがつて、本願意匠は意匠法第九条第一項に規定する最先の意匠登録出願人にかかる意匠に該当しないから、意匠登録を受けることができない。
〔編注2〕本件における別紙は左のとおりである。
別紙第一
<省略>
別紙第二
<省略>